要約・レビュー「オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る」デジタル社会の未来を生きるヒントとは?

要約・書評・レビュー
【要約・書評・レビュー】オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』レビュー

オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』はオードリー・タンさんの、デジタル社会とAIの未来についての考えをまとめた本です。

著者のオードリー・タンさんは、台湾の行政院(日本の内閣)の閣僚で、デジタル担当の政務委員を努めています。

台湾は、新型コロナウィルスの拡大防止対策をいち早く実行し、封じ込めに成功したことで注目を集めました。

新型コロナが爆発的に拡大する中、世界中の国々はロックダウンや緊急事態宣言を行い、国民の生活は大きな制限を余儀なくされ、各国のGDPは減少していきました。そんな中でも、台湾は緊急事態宣言の必要もなく、国民はコロナの恐怖に怯えることなく自由に生活でき、GDPも順調に成長させることに成功しました。

ここで、デジタル・テクノロジーを上手く利用し、新型コロナ封じ込めの立役者となったいたのがオードリー・タンさんです。

本書では、そんなオードリー・タンさんが、今回の新型コロナ封じ込めに成功した理由から、今後の社会において、デジタル・テクノロジーがどのような役割を果たし、また、どのように活かしていくべきなのかを語っています。

IQ180でトランスジェンダーという、社会的マイノリティーでもあるオードリー・タンさん。その生い立ちから、ターニングポイントとなったライフイベントなども交えつつ、天才の考えるデジタルとAIの未来像を知ることが出来ます。

本書で一貫して語られているのは、デジタルやAIが未来に及ぼすものは、決して悲観的なものではなく、明るいものであること。そして、タンさん自身もそうであるように、社会的なマイノリティーの意見を社会がすくい上げていくシステムを構築していくことで、社会は常に良くなり続けるということです。

SF映画のような、AIやテクノロジーが人類を脅かすような未来ではなく、デジタル・テクノロジーのおかげで、社会的弱者や少数派も安心して、社会全体がのびのびと生活できる未来。

本書を読めば、そんな未来を私たちの手で作っていくことができるのだと実感することができます。

オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る
オードリー・タン(著), プレジデント書籍編集チーム(編集)
プレジデント社
256ページ
オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』の要点

要点1

新型コロナウィルス拡大は、人々の物理的なつながりの妨げにはなった。しかし、デジタル世界では、ネットワークやコミュニティは強化された。今後はますますデジタル世界のつながりが拡大されていくことが期待される。

要点2

デジタルテクノロジーやAIが人間の仕事を奪い、AIが人間を支配するという心配は杞憂似すぎない。デジタルテクノロジーはあくまで道具に過ぎず、成否を握るのは使う側の問題である。

要点3

デジタルテクノロジーは、国境・権威を超え、多様な人々の意見を集めることに優れたツールである。このテクノロジーを使い、少数派を含めた多様な意見を集め、社会を改善していくことが大切である。

『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』要約・書評

台湾の新型コロナウィルス封じ込めが成功した理由

2020年に全世界に感染が広がった新型コロナウィルス。その封じ込めに成功した台湾は、どのような政策を行ったのだろうか?

SARSの経験を社会全体で生かした迅速な対応

1つ目のポイントとして、2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験を生かした点があります。このとき台湾は、346人の感染者と73人の犠牲者を出し、都市部の病院が2週間に渡って封鎖される自体が起こりました。

この経験から、「ロックダウンは社会にとっていい効果を生まない」ことを、社会全体が教訓として得たと言います。さらに、「感染予防にはマスクの着用が効果的」だという知見を、国民が共有できたそうです。

蔡英文総統は後に、「医療専門家や政府、民間、社会全体の努力」が合わさって封じ込めという結果につながったと語っており、SARSの教訓を社会全体でシェアして今回の事態に生かせたことがうかがえます。

つまり、台湾は、今回の新型コロナウィルスが発生したとき、まだウィルスの正体が明らかにされる前から、SARSの教訓を生かして感染拡大防止に全力で動き出し、社会全体が理解ある行動で協力し合ったことで、封じ込めを成功させたのです。

台湾の新型コロナ封じ込めまでの施策

それでは、台湾は新型コロナウィルスの感染拡大防止対策として、具体的にどのような施策を行ってきたのでしょうか?

1月21日の段階で武漢からの入国制限を開始し、24日には中国本土からのすべての団体観光客の入国を禁止。さらに、スマホを利用して感染経路の確認と接触者への警告メールを送信しています。

日本が「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」をリリースしたのは6月19日ですから、台湾の行動の速さは驚異的です。

それと同時に、台湾政府は民間企業にマスクの増産を要請し、マスクをすべて買い上げ。すべての人々に行き渡るような政策を開始しました。

最初は、コンビニエンスストアやドラッグストアで誰でも3枚まで購入可能にしました。しかし、一度購入した後に別店舗でも購入できてしまったため、複数店舗で購入できないように全民健康保険カードを使った実名販売を開始。これによって重複購入者を除外できるようにしました。

当初は電子マネー決済のみのマスク販売だったため、お年寄りなどの現金での買い物しかしてこなかった人が、上手く購入できない問題が発生しました。そこで、電子マネーだけでなく、現金でも健康保険カードを持っていれば購入もできるように変更しました。

次に、店舗の在庫が不明だったため、店先に長蛇の列が出来てしまう問題が発生しました。そこで、マスクの在庫がわかる「マスクマップ」を導入。どの店舗にどれだけの在庫があるのかをリアルタイムで知ることができるようになりました。

このようにして、台湾では、誰もが安心して効率的にマスクを購入できるようになったのです。

日本では、国内のマスクは転売目的で買い占められ、価格は高騰していましたよね。日本政府はその後、一時的にマスクの転売を禁止しましたが、これは3月15日からでした。

その後、アベノマスクが国民に配布されましたが、これは4月に入ってからのことで、マスクの配布が終了したのは6月20日頃だったと言われています。

現在ではマスクは購入しやすくなりましたが、だいぶ長い間、マスクがなかなか手に入らず、不安で過ごした方も多かったと思います。

プログラミング的な問題解決のプロセス

私はWEBエンジニアの仕事もしているのですが、台湾のマスク政策を知ったとき、問題解決のプロセスがプログラミングでの共同開発によく似ていると感じました。

マスク政策は、まずはじめに、コンビニエンスストアやドラッグストアで1人3枚まで購入可能という条件で開始されました。これは、例えば「アプリのバージョン1.0」またはβ版のようなものです。とりあえず、今できるところから、リリースして試してみるという姿勢が見られます。

リリース後はすぐに、マスクの重複購入が可能というバグが報告され、修正が必要となりました。そこで、重複購入を出来ないようにするために、全民健康保険カードというツールをアプリに組み込み、これを「バージョン1.1」としてアップデート。

さらに、高齢者が現金で買いたいという要望が入り、アプリの機能をさらに追加アップデート。マスクの在庫がわかなないために行列ができるというバグの発生があり、また新たに「マスクマップ」という機能を追加したバージョンアップ版をリリース、という具合です。

プロジェクトのバージョンの管理には、複数人が共同で開発できるGitHubのようなプラットフォームを思い浮かべるとイメージしやすいと思います。ここでは、バグなどの問題をみんなで共有し、その修正や進捗具合をメンバーがリアルタイムで見えるようになっています。

大元のプロジェクト(マスターブランチ)は残しつつ、少数派にも対応できる問題は切り分けて(ブランチを切って)同時進行で開発を進めているのもわかります。

これは、私の考えですが、台湾の新型コロナウィルスに対するデジタルテクノロジーを利用した政策が迅速に行えたのは、このようなプログラミング的な思考でプロジェクト管理がされていたからではないかと思います。

一方で、日本の場合は、どのようなプロジェクトでも会議が中心だと考えられます。会議で最終形が決まるまでは政策はリリースされず、リリース後のバージョン管理という考えはあまりなさそうです。プログラミング的な思考や、デジタルテクノロジーの有効活用は今のところほとんどないでしょう。

『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』まとめ

オードリー・タンさんの『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』についての要約・レビューを書いてきました。

本書を読んで思ったのは、天才の考える未来は、意外にも明るく、建設的なものだったということです。

ニュースメディアやエンターテインメントは、テクノロジーの一側面を誇張し、感情を煽る伝え方をする傾向があります。AIや技術革新が人々の仕事を奪い、暴走したAIが人類を支配する。このようなネガティブイメージは、人々を感情的にさせて視聴数が伸ばし、利益を上げるためのメディア戦略に過ぎないのかもしれません。

プログラミング的な物事の捉え方をすれば、世界中には多くのバグ(不条理や理不尽な問題)が発生しています。日々上がってきたバグの報告を、できるところからひとつずつ潰していき、より良いものに改善を続ける。そのためのツールとして、デジタルテクノロジーやAIを使う。

バグの報告には、世界中のマイノリティーの声もすくい上げるような仕組みを作り、その分野で問題解決に得意な人は、いつでもプロジェクトに参加できるようにする。

このようなシンプルな見方ができれば、確かに、未来は今よりずっと良いものになるのだと思います。

社会には、テクノロジーを悪用するハッカーのような存在は出てくるでしょう。しかし、上記のような、人々が協力して問題解決していく仕組みさえあれば、このような悪には負けないはずです。

本書では、ここでは紹介しきれなかったオードリー・タンさんの考えが、まだまだ多く語られています。ぜひ一読して、天才の思い描く社会の未来像を楽しんでみてください。

オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る
オードリー・タン(著), プレジデント書籍編集チーム(編集)
プレジデント社
256ページ
オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る